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鯛網漁法図解かく展示に至れり

いつも企画展の内容に悩まされている学芸員がいかにある一つの作品を展示するに至ったか、作品とともに紹介いたします。


いきなり裏側の話というのも品がありませんが、展覧会では「初出品」というのがやたらと重宝されます。取材などありますと、当たり前ですが見どころをきかれ、フツーなものより、ヘンなものに喜ばれます。

そういうわけですから、思うところのヘンなものとして本作を出品致した次第です。

ヘンだなどと個人的な感覚でしかないわけですが、そう思う以上つまり私にはこれが何なのかわかりません。すでに「図解」されている当作を解明するという不勉強にたたられた旅が始まりました。


全体の図を示します。

題と第1図~第3図
第4図

なおこの資料なんと優しいことに18ページもの説明書付です。

ありがたや。










というわけで一応、作品と説明書を読みました。

が、意味不明。

理解できません。

何か手っ取り早く素人が鯛網を理解できないかと思っていたところ、瀬戸内海歴史民俗資料館という近くてうってつけそうな博物館を見つけました。

URL貼っておきます。


備讃瀬戸を一望する五色台の上に建っており、石積みの建物は「日本建築学会賞」を受賞したり、「公共建築百選」にも選ばれているかなりの映え物件ですのでおすすめです。


内容はやや専門的なところもありますが熱意をもって研究された成果の展示であることが胸に染み入りコアな客層にはたまらないかもしれません。


さて、展示を拝見してみましたがどうやら漁にはいろいろあるらしいということがわかり迷宮入りしました。

困ったので受付で、100年位前の鯛網がわかる本ありませんかなどと怪しい質問を投げかけると、奇遇にも鯛網の専門家ですという方(真鍋篤行さま)がおいででした。

様々ご助言をいただき、何もせずとも本資料の内容、位置づけ、出品歴までお教えいただき、私は調査作業を(サボる)終えることができました。


本作についてわかった事を残しておきます。

・鯛大網(まき網)

この網(全長約540メートル)を使用するには、大小10の船に、51人の船員が必要。

指揮船は松の枝や旗をもってみんなに合図する。

まず小さい船が綱(縄)を持って左右へ先行する。(第一図)

この綱が魚をおどして綱の枠内に集める「威縄」(いなわ)となる。(第二図)

網を積んだ大きな網船が綱の周囲から網をかけていく。(第三図)

網が左右から円をつくるなかで、両側の網の口から魚がでていかないように、仕事を終えた他の船は船の横板をばしばし叩いたりして音を出しながら網口へと集まる。

さいごは各船に一人を残して、みんな網船に乗り移り、網を引き揚げながら手網で魚を捕獲する。(第四図)


・漁獲高

約6000尾にして価格2400円。(八十八夜(5月2日くらい)より30日間ぐらいやるのがベスト、つまり約1か月でこれぐらい。)


・業務沿革

村で始まったのは宝永年間(1704-11)にして文政年間(1818-31)にやや改良して威縄法を始めたりと言い伝はれど詳細知るに由なし。歳月を経るに従い改良したりといへども近年に加へたるものなし。


・売価

25円(本図解の価格)


・つくった場所

岡山県児島郡日比村大字日比二百三十番邸

綾野友太郎自宅


・出品人

岡山県備前国児島郡日比村日比区

日比村長 高尾浩


・漁具の特徴

最大の特徴は漁網の丈について中心部が高く、端になるに従い低くなる扇形の形態をしている点。さらに網の目の大きさは菱形の網目の節の上端から下端までの長さが14~15cm程度の大きさで、この網目の大きさとその大きさに変化が少ない点も鯛大網の特色。


・漁法の特徴

網を入れる方向は潮を正面から受けるのでなく横から受けたり、音で鯛を脅すのも鯛大網によく見られる。また、備讃瀬戸は潮の流れが速いので、満期と干潮の前後の潮のゆるい時期に行う。瀬戸内海では備讃瀬戸以外は潮がゆるいので、満潮や干潮に関係なく操業された。


・資料的な価値

本資料は明治30年(1897)の9月1日から11月30日の会期で神戸市で開催された第二回水産博覧会に出品された「鯛網使用図面」ではないかと推定されます。類例としては明治23年(1890)に開催された第三回内国勧業博覧会に香川県丸亀市本島より出品された鯛大網の絵図と解説があり、これは後に『讃岐鯛網図解』として出版され、『日本水産補採誌』にも収録されています。鯛大網に関する資料は少なく、年代や来歴が明らかで、漁具・漁法を詳述した資料は本資料と『讃岐鯛網図解』の他は香川県水産試験場『大正四年度業務功程』(1916)(現在入手困難)がある程度で漁具・漁法も研究史上でも貴重な資料です。


『第二回水産博覧会出品目録 第一冊』 国立国会図書館デジタルコレクションより 傍線は筆者

以上、大部分は真鍋氏よりお世話になりました。

おかげさまで無事展示につながりました。

(2021年6月24日~9月5日 涼を楽しむ 夏の所蔵品展)

(※おわってます)


・野﨑家の日記から



明治31年5月12日 晴天

日比沖ニ於ケル池田侯爵鯛網見物

大漁ニテ一行満悦直ニ三幡港ニ向ケ帰航セラル


野﨑家の総務部長・小西増太郎が池田侯爵(章政)を高尾浩村長と共に鯛網ご案内。

色々あるも何とか大漁でご満悦でした。(参考:太田健一「瀬戸内児島の鯛網漁考」『倉敷の歴史第23号』、すべて終わった後に太田先生が本作をもとに論考しているのを知り愕然としたのは我が愚かさが察せられます。)





 

お知らせです(唐突)

『第二回水産博覧会出品目録』をはじめ、当館より18点を貸出展示中です。


学びの歴史像―わたりあう近代―

2021年10月12日(火)~12月12日(日)

人々は何を学んできたのか、なぜ学ぶのか


国立歴史民俗博物館

千葉県佐倉市城内町 117

開館時間:9:30~16:30

休館日:月曜日(祝日なら翌日)

入館料:大人600円 大学生250円 高校生以下無料

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